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横浜地方裁判所 昭和62年(わ)2302号 判決

本店

神奈川県藤沢市藤沢五五六番地

富士興業株式会社

右代表者代表取締役

関根愼

本籍

神奈川県藤沢市南藤沢四番地の一一

住居

同県同市辻堂大平台二丁目一番三五号

会社役員

関根貞雄

昭和三年四月一四日生

本籍

神奈川県藤沢市南藤沢四番地の一一

住居

同県同市辻堂大平台二丁目一番三五号

会社役員

関根チエ子

昭和四年三月一〇日生

右の者らに対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官總山哲出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人富士興業株式会社を罰金三、五〇〇万円に、被告人関根貞雄及び被告人関根チエ子をそれぞれ懲役一〇月に処する。

被告人関根貞雄及び被告人関根チエ子に対し、未決勾留日数中各三〇日をそれぞれのその刑に算入する。

被告人関根チエ子に対し、この判決が確定した日から三年間、その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人富士興業株式会社は、横浜市金沢区谷津町三六七番地(昭和六一年九月一日以降は、神奈川県藤沢市藤沢五五六番地)に本店を置き、パチンコ店等遊技場の経営などを業としていたもの、被告人関根貞雄は、同会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括掌理していたもの、被告人関根チエ子は、同会社の取締役として同会社の経理事務等を担当処理していたのであるが、被告人関根貞雄及び同関根チエ子は、共謀のうえ、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、パチンコ店営業による売上の一部をひそかに除外して帳簿に記載しない無記名債券を購入するなどの方法により被告人会社の所得を秘匿したうえ

第一  昭和五七年七月一日から昭和五八年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が一〇億五、六〇九万七、四八四円であったにもかかわらず、同年八月三〇日、横浜市南区南太田町一二四番一号所在の横浜南税務署において、情をしらない黒田偉志男を介し、同税務署長に対し、所得金額が九億四、四二九万〇、四五〇円で、これに対する法人税額が三億七、四二一万八、八〇〇円である旨の偽りの法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額四億二、一一七万〇、六〇〇円と右申告税額との差額四、六九五万一、八〇〇円を免れ

第二  昭和五八年七月一日から昭和五九年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が八億一、七九四万九、六七二円であったにもかかわらず、同年八月三〇日、前記横浜南税務署において、前同黒田偉志男を介し、同税務署長に対し、所得金額が七億三、三六五万五、〇四六円で、これに対する法人税額が二億九、三五〇万三、〇〇〇円である旨の偽りの法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額三億二、九九九万三、四〇〇円と右申告額との差額三、六四九万〇、四〇〇円を免れ

第三  昭和五九年七月一日から昭和六〇年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際の所得金額が九億一、六八七万六、二七七円であったにもかかわらず、同年八月三〇日、前記横浜南税務署において、前同様黒田偉志男を介し、同税務署長に対し、所得金額が八億三、七四九万七、七八七円で、これに対する法人税額が三億四、〇三二万九、七〇〇円である旨の偽りの法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額三億七、四六九万四、二〇〇円と右申告税額との差額三、四三六万四、五〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一  登記官永島博作成の登記簿謄本

一  大蔵事務官作成の債権調査書、預金調査書、金銭信託調査書及び役員借入金調査書

一  証人黒田偉志男の公判廷における供述

一  被告人関根貞雄および同関根チエ子の当公判廷における各供述

一  被告人関根貞雄(一三通)及び同関根チエ子(六通)の検察官に対する各供述調書

判示第一の事実につき

一  法人税確定申告書(検察官請求証拠等関係カード番号4)

一  大蔵事務官作成の法人税額計算書(同番号5)及び脱税額計算書(同番号6)

判示第二の事実につき

一  法人税確定申告書(同番号7)

一  大蔵事務官作成の法人税額計算書(同番号8)及び脱税額計算書(同番号9)

判示第三の事実につき

一  法人税確定申告書(同番号10)

一  大蔵事務官作成の法人税額計算書(同番号11)及び脱税額計算書(同番号12)

(法令の適用)

一  罰条 被告人会社につき

法人税法一六四条一項、一五九条一項、二項

被告人関根貞雄及び同関根チエ子につき同法一五九条一項、刑法六〇条

二  刑種の選択 被告人関根貞雄及び同関根チエ子につき

懲役刑を選択

三  併合罪処理 被告人会社につき

刑法四五条前段、四八条二項により罰金を合算

被告人関根貞雄及び同関根ケイ子につき

同法四五条前段、四七条本文、一〇条により判示第一の罪の刑に加重

四  未決勾留日数の算入

被告人関根貞雄及び同関根チエ子につき

同法二一条

五  執行猶予 被告人関根チエ子につき

同法二五条一項

(量刑の理由)

本件各犯行は、三年間にわたり合計二億七、五四八万円余の所得を秘匿し、合計一億一、七八〇万円余の法人税を免れたものであって、ほ脱率を問題にする余地がないほど、極めて高額の脱税事犯であり、その方法は、被告人関根貞雄及び同関根チエ子において、従業員に命じて日日売上金の一部をひそかに除外させて直接自宅に持参させ、一定の金額に達するや、無記名債券を購入して隠匿していたものである。

しかも、被告人関根貞雄は、昭和四八年一一月一〇日被告人会社に関する同種の法人税法違反の罪で懲役四月の刑に処せられ、その執行を猶予されたのに、わずか五年を経て、昭和五四年ころから、再びほ脱行為を再開したもので、このような再度の税法違反の犯行は極めて異例のことで、大学卒業の学歴を有し、遊技場業界の団体で重要な役職にありながら、本件犯行を反復した同被告人の反規範性は顕著なものがあるといわねばならない。

被告人関根貞雄らは、業績の悪化に備え、経営の安定を図り、パチンコ遊技場業界における競争力を保持するために裏金が必要であったかのように供述するが、すでに被告人会社はパチンコ店を八店舗も有していて、神奈川県においては最も大きい部類に属する経営規模を有するに至り、昭和五七年当時までにも相当の資金を蓄えていたものであり、被告人関根貞雄個人としても非常に多額の資産を有していたものであるから、右供述のようなことは本件犯行の動機として斟酌すべき事情にはならない。

したがって、以上のような犯罪行為の情状からすると、被告人らは厳しい責任を免れないものである。

また、被告人関根貞雄及び同関根チエ子は、昭和六〇年一〇月国税局の係官の調査をうけたのちも、執拗にほ脱行為を否認し、債券証書を隠匿するなどの行為を行ったもので、これ一般の犯罪における証拠隠滅行為とその性質を異にし、偽りその他不正の行為により法人税を免れるための行為の一環となる行為であり、ほ脱行為を貫徹し、違法状態を継続する行為の実質を有するものであり、これにより長期にわたり困難な捜査を余儀なくさせたもので、この点からも同被告人らの行為は非難を免れないものである。

そして、パチンコ遊技場業界の脱税事犯が後を絶たないおりから、この種事犯の一般予防の見地からも、再度法人税法違反の罪を犯した被告人関根貞雄の責任を軽視することはできない。

このように考えてくると、被告人関根貞雄については、本件により比較的長期にわたり勾留されたこと、今では深く本件犯行を反省していること、前判示のほ脱分については、重加算税等を含め諸税を完納していること、贖罪のため比較的高額の寄付を赤十字社にしたこと、その他同被告人の年齢、経歴、家庭の状況等の諸事情を考慮しても、実刑をもって臨むのはやむを得ないものと判断したうえ、前記諸事情を勘案し、被告人らをそれぞれ主文のとおりの刑に処する次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 福嶋登)

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